成瀬ディレクター
テレビはグラスのふちを回る
「ポイっ」の瞬間を見逃さない
ディレクターは企画を書き、ロケ、編集をして番組全体をつくるのですが、その制作過程で「何が面白いか」をその場その場で見つけ出すことが求められます。
例えば、ある番組でアメリカの作物の受粉するミツバチのロケをした時のことがありました。リンゴやイチゴ、トマトなど僕らが食べる食物の3分の1をミツバチが受粉をしていて、受粉時期になるとトレーラーに積まれた2,000万匹が農場を巡って旅をします。
積み込まれているミツバチは自然界に存在しない品種、研究所で女王蜂に優秀なオスの精子を人工受精させて作り出されたスーパー受粉ミツバチ。その人工受精はこれまで日本で撮影されたことのない貴重な場面でした。オスから精子を取り出す時、指で腹を押して生殖器を飛び出させ、注射器で精子を採取するちょっと残酷なやり方。その場面は「いまの世界の食」を象徴する映像なのですが、現場で驚いたのは、生殖器がうまく飛び出なかったオスを窓からポイっと捨てたのです。
おそらく、その「ポイっ」が「世界の食」の一番の象徴でした。当初の撮影では人工授精を撮れればOKでしたが「ポイっ」を見逃さないで撮影することがディレクターに本当に求められることです。
カメラは鏡になって返ってくる
番組の撮影は鏡のように自分が返ってきます。
例えば、番組取材で怪我から復活したスポーツ選手にインタビューをするとします。
Q「ここまで大変でしたね」と聞くと
A「それほどでもなかったです・・・」
Q「順調に結果がでましたね」と聞くと
A「簡単ではなかったです・・・」
たいていの場合はこういう風に答えが返ってきて、ディレクターのQ次第でAは全く逆になったりします。
言い換えるとディレクターの「力量」や「器」によって、撮れるものが変わるのがテレビの現場です。
振り返れば、自分の「器の小ささ」で数々の失態を繰り返してきました。
女優の木村多江さん、指揮者の小澤征爾さん、伝説のフラメンコカンタオール・マヌエルアグヘータ、その人たちに切り込みたくても、跳ね返され、手のひらの上で転がされ、辛酸を舐めました。
「テレビで何を伝えようとしているか」浅い考えは一瞬でバレてしまいます。毎回、ドキドキです。『「おまえは誰」で「何を面白がっているか?」』が鏡のように返ってくる経験は楽しくしびれるものです。
生物多様性
クリエイティブネクサスでは、社員とフリーランスのディレクターをあわせると100人ちかい人が働いています。
「星野道夫にあこがれて世界を巡る人」「ホーミーが出来る後輩」「胸元のボタンが3つ開いたバブルの先輩」「イチローと対戦したことのある元高校球児」「東大から銀行員になって辞めてきた人」「秋葉原で耳かきバイトをしていた女性」「海の泥の微生物を研究していた人」「地下の編集室で若手の食事を毎晩つくるチーフD」。
生物は、多様な遺伝子のおかげで繁栄したそうです。雑種交配の中、どんなジャンルにも進化できる、そういう魅力がある会社です。
これまでのキャリア
初めてのディレクションはNHK「真剣10代しゃべり場」
NHK「グラン・ジュテ」や「いのちドラマチック」の立ち上げを行い
30代後半からはNHK「旅のチカラ」「世界で一番美しい瞬間」などを担当。
昨年はルワンダ虐殺の加害者の出所を追ったドキュメンタリーでATP優秀賞などを受賞。
先輩からの就職活動アドバイス!
番組の面白さは見る人を「裏切る」ことだと思います。
当たり前に思っていることが、実際に見てみると違っていたりするのが世の中で、
知らなかったこと、想像を超えたものに出会い「ドキドキ」
する体験をつくるのがテレビの魅力だと思います。
同じ仕事をするプロとして
当たり前や常識に惑わされない皆さんの感性で
「私は何に『ドキドキ』『ワクワク』するか」を聞けるのが楽しみです。
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